週刊 沖縄建設新聞(2000年7月5日(水)第1970号 )
質の高い公共建築をつくるために II日本建築家協会前沖縄支部長 山城東雄 |
前回に続き、入札に代わる設計者選定方式の提言パート2として補足させていただきます。
1991年3月の建築審議会答申では官公庁施設の設計業務方式の在り方について次のように述べている。
近年、真の豊かさを求める国民意識を反映して、官公庁においても、潤い、ゆとり、文化性や地域の良好な環境形成への寄与等が求められている。また技術集計の進展を新たな行政需要の現出により、高度な機能やこれまでにない機能が求められるようになっている。
こうした新たな社会要請にこたえ、国民共有の資産として誇り得る質の高い施設を整備していくためには、より優れた創造性と高度な技術力に基づいた質の高い設計が不可欠となっている。このような官公施設に係る設計業務の内容に最もふさわしい設計者の選定や適正な委託条件の設備等望ましい設計業務委託方式の確立が重要であると述べ、創造性・技術力等を審査する選定方式の活用、設計者選定の公正性の確保、委託条件の整備の必要性が答申の内容となっています。
中でも、創造性、技術力等の審査の方法で先に記述したQBS(資質評価方式)についてまだ国内でも耳慣れない方式でもありますので紹介をさせてもらいます。
QBSは資質評価方式とはフェーズ1として発注者が複数の候補者に、資質評価のための資料となる「資質表明書」の提出を求め、あらかじめ用意された評価基準によって候補者を3~5社にしぼる。
資質表明書の記述内容として、事務所の経歴、規模、サービス内容、受賞実績(コンペ等の受賞歴も含む)、設計担当者の構成、技量、事務所の主要業務、関連同種、類似業務実績、担当者の業務実績、事務所の手持業務量、設計担当者の手持業務量、取り込み体制、設計担当者の資格、チームの特徴、品質管理、地域特性の理解度がある。
フェーズ2としてしぼられた候補者に対して担当者の資質及人となりを審査するためインタビューを行いまた、必要に応じて、担当者の代表的な作品を実地に視察したり、建築主や建物の管理者など関係者の意見等を聴取して順位をつける。
フェーズ3として最上位の候補者と対象プロジェクトについて業務範囲・内容・期間等を確認し報酬について協議する。その交渉は両者が対等な立場で公正になされなければならない。
特性として発注者は業務への取り込み体制、担当者の実績などにより、設計を委託するにふさわしい組織(事務所)と人(担当者)を特に後者に焦点を当てて選定する。
具体的設計案は求めないので、設計競技方式のように設計案に拘束されることはない。
設計者は、選定の段階で設計案を作成するといった負担を負うことはない。一般に、手続きに要する手間や時間はプロポーザル方式よりさらに少なくて済む、規模の大小に関わらず、多様なプロジェクトに対応できる手法と思われる。UIA(国際建築家連合)が推奨するQBSに近い方式「日本版QBS」といえる。昨年県内の民間団体の沖縄県司法書士会が会館建設に当たっての設計者選定に中立的、公正さを出すためにこの方式を取り入れ私共が最終選考で残り現在その設計に取り組んでいる。
もう一つ私見を述べたい建設事業には、河川や道路、公園、宅地造成等の「土木」分野のものと、庁舎や学校あるいは住宅等の「建築」の分野がある。日本では一般に、この両分野は様々な点で相違している。例えば、学問としての両者はそれぞれ異なる起源と発展経緯をもっていて、教育システムやカリキュラムも異なり学会も別々である。また性能・技術に関する基準・規定等もそれぞれに定められている。こうしたことを受けて設計や施工のプロセスや体制も違うので両者を1くくりにすることは実態にそぐわないことになるのは百も承知であえて申し上げたい。
出来上がった道路や公園等を利用する一般市民にとっては土木も建築もない。土木の皆様には大変な失礼を承知で申し上げると建築家としての目でそれらを見た時物足りなさを感じる場面が見受けられる。逆に公園のデザイン等建築家が関わった道路や公園で心ち良さをつくり出しているものが全国でも近年見えはじめている。
そこで県内でも冒頭の記述のように、より良い公共施設ーまちづくりのために設計発注(公園・モニュメント等)の段階で土木コンサルタントと建築士事務所とのJV方式を多くに取り入れていただけないものであろうかと願うものです。それぞれの良さ、持ち味を生かしながらの協働作業が新たな境地を切り開くものと期待します。規制緩和が叫ばれている昨今、これまでの常識に択らわれない柔軟な発想がより快適なまちねみ創出につながるものと信じます。
20数年前ある市町村で新設校の基本設計発注を土木コンサルタントに発注する状況が続いていたことがある。初めに造成ありきの発想、である予算面からして土木の分野がかなりのウェイトを占めるのも解るが建築の視点でとらえ起伏を生かしたデザインが無理な造成を押え、コストダウンにつながることだってあるのであり、何よりも自然景観への配慮が優先された建築の配置計画が大切なことであることを御理解頂きたいものである。
記念碑的な建築、新たな価値観を生む施設等にはぜひ積極的にこれまで述べた入札によらない設計者選定方式を各市町村においても取り入れて頂きたいと私達建築家協会は願っております。
『週刊 沖縄建設新聞(建設論壇)』掲載記事
▽2000年3月15日《第1954号》(社)日本建築家協会の役割▽2000年5月10日《第1962号》入札に代る設計者選定方式の提言
▽2000年7月5日《第1970号》質の高い公共建築をつくるためにII
▽2000年.8月30日《第1978号》 サミットの余韻を楽しめるまちづくり