週刊 沖縄建設新聞(2000年5月10日第1962号 ) 

入札に代わる設計者選定方式の提言
=質の高い公共建築をつくるために=

日本建築家協会前沖縄支部長 山城東雄
 

昨年8月、私共(社)日本建築家協会が中心となり入札に代わる設計者選定方式の提言をまとめその啓蒙に努めることとしている。そのパンフの序文を紹介しながら問題提起をしたいと思います。
 良い建築、いいかえれば質の高い建築や優れた生活環境をつくるーそれは発注者や設計者だけでなく、それを利用する人さらには国民全体の願いです。特に国や自治体による公共建築は「国民のもの、あるいは国民の資金(税金)でつくられるもの」という認識に立って、良い建築をつくる方法を真剣に考えることが大切です。このためにこれまで多くの努力が払われて、それなりの成果をあげてきているにもかかわらず未だ満足すべき状況にいたっておりません。

 1991年に建築審議会が建設大臣に行った「官公庁の設計業務委託方式の在り方に関する答申」以来、1995年の建設省の建設産業政策委員会による「建設産業政策大綱」の発表、そしてそれに基づく1998年の中央建設審議会の「建議」や同年に建設省から発表された「公共工事の品質確保等のための行動計画」さらに1995年には発注者責任研究懇談会が公共事業における発注者責任に関して報告素案をまとめ、建設関係団体にも意見聴取を行いました。これらのことは、良い公共建築をつくるために、国自身も真剣に取り組んできたことを示しています。  良い建築をつくるためにはその「設計」が大切であることは論をまたないところですが、建築の設計は形の無いところから意味あるものを創造する仕事で、多くの場合、前提となる条件が確定しない段階から、設計者は発注者のパートナーとなって、企画目的実現のために協働する事が求められます。こうした「設計」の発注方式について、発注者も設計者側もこれまで夫々の意見を出し合ってきました。 そして1993年からは建設省と東京都、神奈川県それに複数の建築設計関係団体が加わって「公共建築設計懇談会」が発足し、発注者と受注者の双方が同一のテーブルについて協議してきました。
 それにもかかわらず、現状は設計料の多寡によって設計者を選ぶ「設計入札方式」が広く行われています。これは設計者にとっても、また国民にとっても不幸な事であり、日本の文化的後進性を示すものといわれても反論することが出来ません。このままでは建築設計分野の健全な発展を阻害するだけでなく、日本の建築、都市の疲弊をもたらすことにもなり兼ねません。設計入札は国際社会にも通用しない異端な方式で、現に国際建築連合(UIA)では設計料の多寡による設計者選定を否定し「特命」「コンペ」「QBS(資質評価方式)」の三方式を望ましい方式として推奨しています。
 発注者にとって、優れた設計者を選ぶことは当然の義務であり、その為の努力は単に質の高い建築や優れた生活環境の創造への貢献のみでなく、「建築環境の持続可能な開発を確かなものとし、社会の社会的、文化的、経済的価値を保護するために」も欠かすことができません。またこうした望ましい設計者選定方式は単に公共建築に限るものではないのは当然のことです。広く民間の建築も含めた方式として定着する必要があるといえます・・・。とここまでは序文の会長あいさつより引用させていただきました。

 当地沖縄県もご多分にもれずどの市町村も設計者選定については圧倒的に入札方式を採用しているのが実状です。これは会計法や地方自治法からくるものでありJIAではこれらの既存法にとらわれない「公共工事調達法」といった新しい法令を制定する必要性を訴えている。入札制度に較べコンペやプロポーザル、QBSにしてもその方式を取り入れるには審査員構成やその他諸々の手続き等、発注者側にとっては経費も含めて繁雑な事務ワークが発生し負担が大きく、それに情熱を持って取り組む担当者がいない限り大方が入札執行へと流れるのである。
 このような発注者側の負担を軽減させながら発注者に代わって諸準備から審査までを(社)沖縄県建築士会が依頼を受け設計コンペを行ってきている実績がある那覇市伝統工芸館、佐敷町シュガーホール等で、近年では読谷村文化センター、恩納村庁舎がありいずれもりっぱに完成し利用者から喜ばれているのは当然ながらコンペによる設計者選定が正しく評価された結果の現れである。

 沖縄県においても近年の県立武道館、公文書館、オープンしたばかりの平和祈念資料館がありいずれもコンペによる力作であり、歴史的な背景として我が県での設計、施工分離方式がいい意味でコンペへの取り組みを促しているとの見方ができる。
 コンペとなると私共応募者は必至となり、あらゆる情報をかき集め渾身の力を振り絞るかのように傾倒し、夢実現に向けあらゆる解決法を模索しながらベストを尽くすのでありその中から選び抜かれた作品は名作となると信じている。
 建築が同一条件でも設計者によりその解決方法ー問題提起、風土の捉え方等々大きな違いが表れる。それはとりも直さず設計者の持つ哲学、識見、感性等が如実に現れるからであり従って発注者の背景を見極めながら単に入札に走らず入札以外の選定方式(特命、設計競技、プロポーザル、資質評価方式)を採用すべきか検討、論議の中から発注して頂きたいと願うものです。
 新たな世紀の社会資産として十分に耐え得る沖縄らしい建築を残すためにも。

 

『週刊 沖縄建設新聞(建設論壇)』掲載記事

2000年3月15日《第1954号》(社)日本建築家協会の役割
2000年5月10日《第1962号》入札に代る設計者選定方式の提言
2000年7月5日《第1970号》質の高い公共建築をつくるためにII
2000年.8月30日《第1978号》 サミットの余韻を楽しめるまちづくり