週刊 沖縄建設新聞(2000年8月30日(水)第1978号 )
サミットの余韻を楽しめるまちづくり
日本建築家協会前沖縄支部長 山城東雄 |
私達沖縄にとって20世紀最後にして最大の置きみやげ「G8サミット」が世界に向けて数々の発信をしながら無事盛況裏に終えたことを県民の1人として喜んでいます。
サミットのお陰げの1つにかりゆしウェアーの着用がある。これまでツーリストや銀行が定番であったが、公務員まで徹底されると、こちらも着用し、あいさつ回りもノータイで行動できる。もう一つの効果として冷房温度を引き上げることで経費節減と電力の唱えている昼夜の負荷平準化に大いに貢献できることになるのである。
余韻さめやらぬうちにと先月の万国津梁館の公開に家族で見学することができた。 展示されたクリントン大統領はじめ各国首脳のサインを見るのに長蛇の列、多くの人出で立ち止まることもゆるされない中、それでも建築の持つ魅力も手伝い、当時に思いを馳せながら足早に全体を見ることができました。
ロケーションの良さが生かされた配置計画、程良いスケール感、東南アジア的な"木"のインテリアデザインは華美に走り過ぎない新たな沖縄らしさを創り出しているのではないだろうか。
しかし、アプローチのエントランス広場は今後はアスファルト面を減し花と緑の自然面を多く取り入れることで、もっと魅力が増すのではと勝手にイメージしながら小雨の中を帰路についた。
あれから1ヶ月、先日名護市内プレスセンター前を通り、ガッカリしたのはあれだけ会期中咲き誇っていた花々が根こそぎ取り払われているのです。 祭りは終わってもその余韻を楽しめる余裕がほしい。当然ながら一過性の祭りでなく、サミット効果として継続した美しい街並み保存や、美化運動へと継いでほしいものである。少なくとも観光立県を唱え続ける以上ポストサミットをしっかり描ききることが大切であり、サミットで発信したことが映像の世界だけで終わらぬようにありたいものである。
県ではコンベンションアイランド構想や、マルチメディアアイランド構想等次年度へのビジョンを描いていると聞く、種々の面グローバルゼーションが叫ばれているが国際化=欧米化ではないことは確かであり沖縄がより沖縄らしくあること(県民の持つホスピタリティ、歴史文化、平和希求等)が新たな世紀で最も国際豊かな街になるものと信じている。
21世紀につなぐ街づくりの一つに那覇新都心地区がある。旦っては米軍基地の住宅エリアとしてランドエスケープデザインと相まって美しい光景であった。
そのような風景の代替として返還後の新都心にかける県民のイメージはこれまでにない街づくりのモデル地区になってほしいと云う強い願いがある。
直接の那覇市当局があらゆる角度から英和を傾け新しい世紀へとつなぐ街づくりの骨格ができたものと理解するものですが、現実的には地権者や設計者を含む建築を企画している方々がどれだけ理解し思い入れがあるかは疑問のふしが多々見受けられる。
特に問題なのは住宅エリアである。 私達建築家仲間でいつも話題になるのはこのままでは全国どこにでもあるようなプレハブメーカーの展示場の風景が出来上がっていまうのではとの危惧である。
経済社会の中で家を建てる人にとては一つの選択肢でありそれについてどうこう云うつもりはない。しかしどのように時代が移ろうと沖縄の風土は変わらない。真夏の強烈な照り返し、いやが上にも訪れる台風、海風、etc、そのような気象条件一つ捉えても雪の降る本土と同じ建築であって良いはずがない。形を変えられなければせめて色合いだかでも沖縄らしさを追求してほしいもの。旦って、首里城復元の際、屋根瓦の赤、黒戦争があった、古く浦添城跡からの出土の高らい瓦も黒であった。しかし時間の流れの中で赤に変わったと云うことはそれだけ風土に馴染んだと云う見解ができる。
現在の住宅エリアの保留地の大方が本土プレハブメーカーにより落札されたことが原因のようである。屋敷囲いの部分は琉球石灰岩の石積みであり、それとは不釣り合いな黒い屋根が並んでいる風景は異様にさえ見える。住んでおられる皆様には申し訳ないが私はいつも住まいは個人のものであってもその外観を含め道路際の中間領域は一つの社会資産だと思っている。
是非プレハブメーカーの皆様に一考を促したいし購入者もそのあたりを注文をつけて街並みに貢献する意識を持ち続けてほしいと願っております。
新しい街は訪れる人がワクワク、ドキドキする感動や出会いを期待するまちでなくてはと思う。この新都心のどこに、このような部分が秘められているかと云う意見もある。街には色々な断面があって良いのではないか物販の大型店舗や大型駐車場だけが目立ち、ハイテクを駆使した建築だけでは人は疲れてしまう。小さな喫茶店や赤ちょうちんなど界隈のあるまちが人々に安らぎと活力を与えることになる。五感に響くような街づくりであってほしい。
成熟社会に向かうことは必ずしもハイテクだけが先行するのではなく、地場の従来からあるローテクやヴァナキュラーの部分が点在してこそ街の個性や魅力が一層引立つものでなかろうか。
そのようなことを含めこの新都心に限らず沖縄の住まいのあり方を考える一つのイベントとして私達JIA沖縄支部は新しくできた公庫のロビーで9月の18日より住まいのパネル展及会員による講演会を実施します。
これからの住宅建築を予定している方、設計者、建築家を選ぶのに迷っておられる方是非ご参加下さい。
『週刊 沖縄建設新聞(建設論壇)』掲載記事
▽2000年3月15日《第1954号》(社)日本建築家協会の役割▽2000年5月10日《第1962号》入札に代る設計者選定方式の提言
▽2000年7月5日《第1970号》質の高い公共建築をつくるためにII
▽2000年.8月30日《第1978号》 サミットの余韻を楽しめるまちづくり